2009年2月24日火曜日

チェンジリング

公式サイト(日本語)

昨日は米国アカデミー賞の授賞式があり、日本の映画が二つ受賞したが、この映画に賞が与えられなかったのは意外だった。しかし、ここ数年名作を送り出し続けているクリント・イーストウッド監督の勢いがまったく衰えていないことを感じさせる映画だった。

1920〜30年代のロサンゼルスが舞台の、行政の腐敗と女性蔑視が絡んだショッキングで重い作品だが、いくつかの決着、解決がもたらされるたびに、アンジェリーナ・ジョリー演じる主人公クリスティン・コリンズの複雑な気持ちに共感せずにはいられない。

この作品のキーパーソンの一人に、ジョン・マルコヴィッチが演じるギュスターヴ・ブリーグレブという長老派教会の牧師がいる。ロサンゼルス市警察の腐敗を批判するキャンペーンを張っているブリーグレブ牧師は、警察の探し出した子どもは自分の息子ではないとコリンズが訴えていることを伝える新聞記事を見て、コリンズに接触し、協力を提案する。一方で、事件がある決着をみたとき、まだ息子を探すことをあきらめないコリンズに、「息子さんはきっと待っていますよ、私たちもいずれ行く場所で」と語りかける。したたかな活動家と、宗教的な慰撫を与える者との両側面をもつキャラクターだ。

この映画は実話にもとづいているが、Presbyterian Church (USA) のサイトに載っている記事、Presbyterian pastor portrayed in new Clint Eastwood filmによると、ギュスターヴ・ブリーグレヴという牧師は同年代に実在したものの、この事件にかかわったという記録はないそうだ。友人のR.P. Shuler牧師とともに、ロサンゼルスの風紀の乱れを告発したことで有名だったということである。

また、牧師がラジオで説教するシーンも何度か出てくるが、Daniel A. Stout (ed.), Encyclopedia of Religion, Communication, and Media (Routledge, 2006) によれば、この時期、ラジオが黄金期であるとともに、数多くのラジオ説教師が活躍しており、ロサンゼルスでは Aime Semple McPherson (1890-1944) という女性が、ラジオを通じて癒しを行った説教師として有名だったそうだ。

2009年2月22日日曜日

寺田喜朗『旧植民地における日系新宗教の変容』



著者の寺田喜朗さんより、新刊の『旧植民地における日系新宗教の変容―台湾生長の家のモノグラフ―』(ハーベスト社)をいただいた。

寺田さんとは、1995年から2000年まで続いた「近現代宗教研究批評の会」以来のつきあいである。日本の宗教社会学の学説・方法史への透徹した理解と、ライフヒストリー法を中心とする丹念なフィールドワークが持ち味だ。こうして堅実な研究書をまとめられたことに、深い感慨を覚える。

通読したらまたコメントしたい。

2009年2月20日金曜日

みさくぼ大好き応援団

2月5・6日、浜松市天竜区水窪町で複数のNPOと住民グループが協働して進めている「みさくぼ大好き応援団」という地域づくりの担い手育成事業について、皇學館大学の櫻井治男先生をはじめとする9名で、関係者の方々にインタビューにうかがい、また天竜川沿いの秋葉街道を通って水窪町を訪れてきた。「宗教の社会貢献活動に関する比較文化・社会学的研究」(研究代表者・櫻井義秀北海道大学教授)による調査の一環である。

インタビューに快く応じていただいた方々の一人、NPO法人魅惑的倶楽部(エキゾチッククラブ)の鈴木恵子理事長が開いているブログでも、すでに紹介していただいている。

視察・・その2

私がこの活動を知ったきっかけは、国土交通省の「新たな公」という事業の採択情報からなのだが、興味深かったのは、水窪町の住民の方が切り出した間伐材を、知的障害者授産施設で「竜水護森・木札」という絵馬のような板に加工してもらい、それを浜松市街のいくつかの提携店で販売し、市民に願い事を書いてもらった木札を、年に1回、水窪町の山住神社に奉納する、という一連の流れだ(写真は浜松市街の地ビール店のレジ脇にあったもの)。
環境啓発、地域づくり、障害者福祉の要素がすべてからみあっているのだが、いったいどこからそのような発想が生まれ、どのようにしてそれが実現できたのか、ぜひうかがいたかったのである。

同行した櫻井先生や板井正斉さんとのやりとりも刺激的だった。今回うかがった貴重な内容はいずれ何らかの形で報告にまとめたい。

2009年2月19日木曜日

高大連携授業

しばらくブログをお休みしていたが、そろそろ再開したい。

さて今日は、高大連携授業(推薦入学者のための入学前教育)のために栃木の高校に出かけた。写真は太平山から見下ろした栃木市街と短大・高校のキャンパス。

1月末から2月にかけて週1回オムニバス形式での授業だが、各担当者が2回分を3時間ぶっとおし(途中10分休憩あり)で行うという、高校生には少々ハードなもの。私の回のテーマは「現代社会と神社」で、前半では都市化をはじめとする戦後の社会変動のなかで人々の神社神道へのかかわりが変化してきたことを説明し、後半では「伝統文化の継承と地域づくり」、「環境」、「社会福祉・社会貢献」の具体例を挙げて、世代間のつながり、自然とのつながりを求める新しい動きと神社とのかかわりについて考えてもらうという内容にした。同じ内容を1月31日に渋谷でも行った。

ここ数年重ねてきた調査で撮影し、共同研究者からも提供していただいた写真や動画をふんだんに取り入れ、間口を広げてわかりやすい講義になるよう心がけた。そのためか、小テスト答案用紙の余白に書いてもらった感想には、「わかりやすかった」、「身近に感じられた」といったものが多かった。その一方で、「やはり自分にとって神社は縁遠いものと感じた」という感想もあったが、そうした感覚を、現代の社会状況のなかで位置取りするための材料を得てもらえれば、よしとしたいと思う。